シュトレンと祈り
「失敗がゆるされない仕事だよ」
そう長女に言って、ぼくは、シュトレンを焼き始めた。
一度に35個も焼く。
合計8キロ近い生地。
試作の段階では、一度に3個位しか焼かないから、
これほど多いと、勝手が違う。
焼成後の時間のかかり方も違う。
失敗したら、ラム酒漬けしたレーズンも
足りなくなる。
祈るような気持ちで、オーブンの前に座る。
・・・
オーブンの前で
祈るような気持ちになること。
こういった気持ちを、久しぶりに味わった。
どれほど試作を繰り返しても、一度に作る量が変わると、
同じものにならないことが、ままある。
だから、苦手な酵母を使うシュトレンでは、
かなり、緊迫した心持ちになった。
・
オーブンの前で、祈るような気持ちになる。
そして、もう16年以上も苦楽を共にしてきた
業務用のオーブンを、
今回、まじまじと見つめる時間があった。
祈るような気持ちを、一身に受けて、
共に、焼いたような時間を、
このオーブンと、何度、持ったことか。
仕事において、祈りは、
やるべきことをやってから、最後に、行うもの、
やるべきことをやらずして行うものではない——
そんな言葉がうかんできた。
やるべきことをやったのち、
こころの中で行うのは、その実、
自らの深部で対話をすること、
それが、祈りのような心地がする。
そこに、少しだけ、かすかな光が
生まれるような気がする。
・
苦楽を共にしてきたオーブンも、ずいぶん、
古びてきた。
拭いたり、こすったり、
なでてみたりするが、
落ちない汚れもたくさんある。
それでも、共にしてきた苦楽や祈りは、
オーブンの中に染みわたり、
消えることのない味わいとなって、
こすっても落ちないものとして、
折りたたまれている。
・
結果、35個のシュトレンは、
ちょっと硬めに仕上がったが、それも、また仕方のないことだと思う。
これを反省に、また、良いものを作ろう。
そして、作り続けることが、
祈ることにつながるような、
自らの深部で対話をすることのような
そんな仕事をしていこう。
この記事へのコメント
ゆかこ
norihey
がりがりもおいしいよね。
29日に食べたら、もう全体的に柔らかくなっていたよ。
時間が経つと柔らかくなるんだね。