地上を底で支えている静けさ

 地上を底で支えている静けさ マックス・ピカート「沈黙の世界」の影響か ある日のノートに ゛ことばが大切にされないと、この地上を底で支えている 静けさが失われる――゛ と、記してあった 地上を底で支えている静けさ、このことを 想うとき 私は すこしだけ 襟を正され すこしだけ 高きところに 安らぐ また ある日のノートに ゛静けさは 行いの中…

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母から届いた詩集「おかあさん」

つい先日、母から荷物が届いた。 甘夏や、タオル、旅の本に混じって、 珍しく詩集もあった。 サトウハチローの詩集「おかあさん」。 特に手紙に何か書いてあるわけでもなく、なぜ送ってきたのかもわからない。 母のお母さんは、若くして亡くなっている。 母が二十歳の時に。 だから、ぼくも会ったことがない。 今も、実家には、母のお母さんがよく弾いていたというピアノが置いてある。 …

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揺らぐことなき ゆるぎないもの

** 揺らぐことのないものにかこまれ 私は仕合せだ 揺らぐことのない自然につつまれて 揺らぐことなき天と地に立って 父母が いつまでも私の父母であり 変わらぬということに おもいうかぶその姿さえ 変わらぬということに 目の前の子どもたちが 私の子どもであるということは 決して揺らぐことがないということに そのさいわいは静けさのように 共にありつづける …

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夜明けのライアー

ライアーの詩をやっと書くことができました。昨年、雲仙の木工作家である鬼塚さんのご指導の下、手彫りして作ったライアー。それ以来、ライアーの響きに魅せられ、詩情を湛えたものであると、ずっと、感じてきました。こころを澄ますような、夜明けの静まりに耳を澄ますような音の手ざわり。読んでいただけたら幸いです。26行です。   *   * 夜明けのライアー 香り…

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夜、眠る頃に…

 夜、眠る頃に…… 困りましたねえ、と そう言うことが、最近私の口癖のようになりました。 けれど私は、実は、さほど困ってはいないのです。 こうして夜遅く、何にもせずに、 静かにぼんやりしていると、 私という人間が、小さく小さく思えてくるんです。 まるで、牧場で見た星空のように 空は大きく、 星はたくさんあるけれど、 それもやはり、ひとつひとつ……

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雨のような人

「遠くの音」のことを書いていたら、詩を幾つか思い出したので、書いてみようと思う。これは24歳頃に書いたもの。もう17年近く前になる。そう思うと、自分って変わっていないのだなと、ふと思った。遠くの音を聴く、それは、詩にも、お菓子にも、農にも、通じているように思う。 * 雨のような人 学生の頃、美術室の机の中に こんな紙切れを見つけました。   …

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五月の風

五月の風 五月の風に暖かさがあるか 誰かが悲しんでいるかもしれないのに ぼくらは ほほえんでもいいのか いや そうであるからこそ  より一層 晴れやかにほほえまねば ならない とさえ思うのはなぜなのか こころを つよく  もって 五月の風は 光にとけてゆく 風は 塵あくた あらゆるものをすり抜けて そっと こころに 寄り添う 

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雪 雪の音がする 声もなく 夜の暗さに 窓の白さに 雪の音がする 声もなく 屋根を眠らせ 町を眠らせ 雪の音がする 声もなく 夢の中で あなたに書いた手紙のように 音もなく 音もなく 雪の音がする

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夜明けの木槿

 夜明けの木槿     夜明けに 木槿(むくげ)の花が咲いていた 今日は一日 大荒れの天気だというが 薄闇の中 降り出した雨に濡れて 風に揺れていた 右に、そして左に  枝の奥から 深く頷くように   何かを思い出すような気配に  わたしは立ち止まり しばらく見つめた 木槿は はちす ともいい 一日でしぼむという   夜明けに 木槿の花は不思議な光を放っていた …

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献詩

この春に、今の世に、詩を捧げます。 荒ぶるこころの 鎮魂となることを願って。           *        花と雲       花のようだった 雲のようだった     そこここに 舞い降りた しおれた葉は 春の雨にうたれ 哀しい歌を やさしく歌う  人のようだった      その歌の野原を  どこまでも 地平まで 歩いて…

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絵を描くようなものに

絵を描くようなものに変わっていった 絵を描くようなものに変わっていった なにもかもが 色彩を帯びてゆきながら 筆を動かし 線が立つ そこに浮かぶ  情景の複雑な含み かすかな感情の現れよ 一枚の紙切れもまた 一行の沈黙した声に沈む 閉じられた目の中で 何かを見ようとしても いつも離れない風景ばかりがよぎるのだが・・・ 完成された景を描こうとすると…

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詩 夕暮れの部屋の中で

    夕暮れの部屋の中で わたしは昔、どんなに純粋だったろう いや、いまも、どれほど純粋だろう 夕暮れの部屋の中で ひとりでぽかんと、妻の帰りを こんなにも待ち遠しく思っている このことが、どれほど純粋だろう そして帰ってきた妻は この静かな部屋で過ごした わたしの夕暮れ時の想いをくみとってくれる わたしたちは 世間での仕事というものが仮…

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詩の好きな家族

さっき詩を書いたので 早速、お昼ごはんを食べながら 子どもたちに朗読。 そして、感想を言い合う。 子どもたちは、ときに、 「あっ」というようなことを言う。 我が家の日常。 その詩をここに。 風の音  稲尾教彦 僕は とおくの音をきく あなたも とおくの音をきく そうしてふたりは そうしてふたりは 同じなにかを思ってる…

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夕やみ

 夕やみ 夕やみは深くて そこに立つわたしに 静まってゆくものの気配を与えた 夕やみ―― それは、みちてゆくこころの気配で 包まれてあるべきだ 一日の終わりに こころがみちる そのように 一日を在れたら どこかで 人を支えていると 信じられる 夕やみの深さの中に わたしは立ち みちてゆくものの気配に 耳をすました

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お菓子をつくりながら、あふれでてくる

たとえば 誰かが こうして ひとり 筆を持って わけを伝えられない涙でもって 考えではない  ことばがあふれるとき その想いは  純粋だ ただ それが書きあがり それを読み返すとき 自分ではないと感じる 深みにいる もうひとりの人のような気がする ふだん忘れている もうひとりの人 そのひとに ときどき会いたくなるのだ   …

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